再び『リズと青い鳥』を論じる。disJointからJointへ。みぞれとのぞみの関係性への考察

DVD発売を記念して再び『リズと青い鳥』を論じてみたい。

これを論じるにあたって「錬金術師の隠れ家」さんの考察記事は非常に刺激になった。

 

やはりこの映画の大きな焦点は、希美とみぞれの関係性に尽きるのではないかと思う。

しかし、重要なのはその関係性と対比的に麗奈と久美子が演奏する場面が描かれている点である。

 

私は「聲の形」に関しては視聴していないが、色々な記事を読む限り、山田監督はある登場キャラクターに焦点を絞り、スポットの当たらないキャラクターは物語から於いていかれる傾向があるらしい。

 

このように考えれば二人の演奏シーンが取り上げられたのも偶然ではないであろう。

 

さて、所謂コミュニティの中で特別な一員として日常を過ごす希美であるが、見返すとどこか周囲に合わせているような表情をしている。

特に序盤で同じ演奏パートの後輩が「かわいい、かわいい」と連呼するシーンなど、我々が学校というコミュニティの現場でよく目の当たりにしたものではないであろうか。この輪の中心人物は希美であり「特別」な存在としてみることが出来る。

しかし、物語が進むにつれて「特別」な存在はみぞれであることが明かされるのである。

 

みぞれは普通の人間である希美をかけがえのない大切な存在、青い鳥として認識している。

前回論じたように、それぞれの関係性は実際は、リズであり青い鳥であるという考え自体は変わっていないが、両者が今後に導かれる展開について考えてみたいと思う。

 

私は、希美は、ありきたりな高校生のコミュニティから挫折により、特別でないことを自覚し、アインデンティティを獲得する物語であると考えている。それぞれが自立した人間であるため、この両者の関係性はどのような結果をもたらすのか、少し考えてみたい。

 

希美は前に述べたように、一見特別な存在であるように所見は感じるが実際はそうではない。生来のコミュニティ能力により、年長の希美は存在感を持っているにすぎないと私は思う。

つまり、映画序盤から中盤の段階では希美はみぞれが、特別な自身へと随順する関係性だと思っているはずである。でなければ、リズと青い鳥が自分たちに似てるとは言わないであろう。

 

そして決め台詞は「やっぱりハッピーエンドがいいよ。」

これはどのように解釈すべきであろうか。希美の優しさからこうした発言がでたのであろうか。私はそうは感じない。自身を青い鳥だと認識する希美は、その存在の特別さを幻視し、のぞみの元へ戻って来ることができることを確信しているが故のセリフではないであろうか。

というより、物語の全体的に両者のセリフがかみ合っていないようにどうしても感じてしまうのである。この齟齬はどこから生じているのであろうか。

それは希美の自意識によるものではないかと私は考えている。

 

みぞれを置き去りに部活を辞めたり、希美に対して私は良い印象を持っていない。(これに関しては理由はあるが)

 

つまり、その天真爛漫で、無垢であり、人たらしな希美の性格はある意味でみぞれを自身に接近するしかない儚い存在と思っている。でなければ、ふぐに餌をやり、音大を受けることをのぞみが告白するシーンで、みぞれに対してリズみたいとは言わないであろう。このように考えれば、自身から自立して音大に進むことを勧められ受けようとするみぞれに対して動揺したことは当然であると言える。希美の中のみぞれは、どこまでも青い鳥の餌をやり続ける存在なのだから。

 

何が言いたいかと言えば、常に共同体の中心人物、「特別」な存在だと自己認識している事が由来し、青い鳥だと思い込んでいたのではないであろうか。

2年生4人でピアノを囲むシーンで「希美が受けるから」といったシーンに対してジョークと言うのは、どこか後ろめたさを感じていたからであろう。

 

私は希美はみぞれという存在を媒介として自己の本質を確認するための存在として必要であったのではないかと考えている。

 

これらの理由で第2期で田中あすかが久美子に二人の関係性について述べたことは、遠からず当たっていると思う。

 

つまり、この時点の希美の「ハッピーエンド」は解き放たれた自分自身は、のぞみの元にいつでも帰還できるという自己の認識から由来する「ハッピーエンド」なのである。

 

こうした関係性は如何にもリアルなように私は感じられる。私は大学を卒業した時常に思ったのが、あれほど仲が良かったであろう共同体は卒業した瞬間からいつの間にかどこかに消え去っていたり、いきなり疎遠になったり。

 

非常にリアルである。私はどこかで繋がっているように「感じる」だけで実際は繋がっていたりしないのである。自己の欺瞞からなる二人の関係性の延命をしている、いや、してすらいない幻想を追いかけているだけである。

 

しかし、みぞれはそう思ってはいなかったと思う。かけがえのない友人として希美を思っていたと思う。根暗と自ら称すように、内向的なみぞれに音楽の道へと誘い新たな道を切り開いてくれたのは、希美であるから。

 

重要なシーンは、新山先生に音大を志望する事を希美が相談するシーンである。

おそらく希美は新山に「そう!あなたならきっと行けるわ!音大に進んだほうが良い!」と激励されると感じていたはずである。

新山から告げられた言葉は、いかにもとってつけたような、「そう。頑張ってくださいね。」程度のものであり、その顔に映し出される心象はほの暗い。

つまり、挫折の一歩目はここにある。のぞみの「大好きのハグ」を拒絶した訳は、新山先生に激励されなかったこと、一方みぞれは激励されていた、という構図に原因がある。つまり、青い鳥である希美は、リズであるみぞれとは違う、特別な存在だと自ら暴露していることに他ならないのではないであろうか。

 

麗奈と久美子の演奏シーンは実にこの両者の関係性と対象的である。麗奈にとって必要である友人である久美子は、麗奈に焦がれ、音楽が好きであることに目覚める。純粋な目標としての麗奈、その関係性がどこまでも対等であり、必要な人間であるとお互いが感じているからこそ、強気な「リズ」を演奏することができるのである。

 

ここで関係性は逆転し、希美はみぞれを解き放つことによって、音楽の世界へと導いた誇りを自覚するのである。

 

演奏シーンでは解き放たれたみぞれの演奏力が発揮される。

 

ラストの二人の対話シーンは何とも、希美は投げやりである。

「対等になれると思った。」「みぞれは才能あるからさ。」「音大に行くって言えばそれなりに見えるかなった思った。」

しかし、はじめからそうは考えていなかったと思う。

みぞれが希美がかけがえのない存在だと告げるシーンで

「そんな大げさなこと言わないでよ。ずるいよ。私、みぞれは思っているような人間じゃないよ。むしろ軽蔑されるべき。」

というのはこれまでの自己認識に起因している。

 

「大好きのハグ」のシーンで声優の東山奈央はこんなコメントを残している

 

東山奈央:未来に向かって進むことを選んだので、希美も前進はできていると思います。ただ、その清々しさって普通のものではないんですね。大好きなみぞれが、無口なみぞれが、言葉を尽くして希美のいいところをあげてくれても、そこに自分が大切にしていたフルートのことは入っていないんですよ。だから笑うしかない。「ありがとう」と告げるシーンも心からの感謝ではなくて、「もう結構です」という意味も込められているんです。だから、希美はあきらめつつ、前進を選んだという感じなのかなと思っています。(超!アニメディアhttps://cho-animedia.jp/special/41881/ 2018.05.14アクセス)

 

つまり、音楽では決して対等ではなかったのであろう。これが両者のすれ違いの原因であり、私の感じた齟齬の原因である。この関係性は以下のようになるのではないか

 

みぞれ→希美の人間性に愛を持っている。

希美→みぞれの人間性ではなく、音楽性に愛を持っている。

 

両者は出会った段階ですれ違っていたのだ。希美が、みぞれの音楽が好きなことは2期でもあるように純粋なものであるであろう。つまり、自身が親しみを持っていたモノとは異なるモノを愛していたみぞれに対する笑いである。それは諦めでもあるし、悲しみでもあると思う。この図式を自覚することによって今までの希美の自己認識は、挫折、というよりかは根本的なすれ違いとして消化「した」のではないであろうか。

 

ラストシーンのみぞれの「ありがとう。」はいつも通りの関係性には戻っているが何故かわからないゆえの疑問形であろう。

希美はみぞれがオーボエを続けることによって、自身の音楽の夢を乗せるのである。

以上によってdisjointはdisを消化しjointするのである。

 

さて問題はこの関係性は友人として本当に消化され得るのであるか、という疑問である。何回か見返すても、この関係性への気づきは希美の側からしか起こっていない。つまり、みぞれは無自覚なまま人の夢を破壊し、その屍の上に立つしかない、という状況が続くのではないか。

 

ユーフォは一貫して脱共同体をテーマに掲げているし、友人という関係性は依然ではなく、こうした自覚のプロセスにより自身のアイデンティティーを獲得し、生きるという大人への階段を上るのである。つまるところ、この物語はみぞれより、希美の挫折と再生、大人へのプロセスにあるのではないかと考える。

 

 

PS

だいぶ長くなってしまい大変申し訳ないです。しかし、次回の映画が楽しみです。

リズの久美子はいい感じに性格悪そうな作画で大満足です!

hiyamasovieko.hatenablog.jp